あなたの学びをサポートします精神看護のストーリーstory

これまでのナース

看護師 上英子
看護師 上英子

家族にとっては、自分の家族の1人が精神を病むと言うことに大きな悲しみと不安を持ちます。

病院に入院することで、家族が別れ別れになるという悲しみもありますが、病院に居てくれると安心と言う思いも強くなっていきます。
特に入院が長期になればなるほど、精神を病んだ家族が自宅に戻ることに大きな不安を覚えるのです。

そんな家族と患者さまの橋渡しをするのが精神看護の役割の1つだと思います。

精神看護は,患者さまと家族との調整を行うことも大きな役割

攻撃的な言動の太郎さん
太郎さんは50歳の男性(仮名)、当院に長期入院をされている統合失調症の方でした。
自宅の隣に住む男性に対する強い妄想があり、妄想が作用して隣の男性に危害を加えると言うトラブルを起こして入院されたようでした。入院後もずっとその男性への妄想が強くあるようで、攻撃的な言動が多かったように記録が残っていました。

太郎さんの回復に不安を持つ家族
時が過ぎ、太郎さんは症状が安定して、内服のコントロールも自分で出来るまでに回復しました。しかしそのころになると、家族がめったに病院に来られなくなっており、当院のスタッフ以外に太郎さんの回復を喜ぶ人はいない状況だったのです。
以前は社会的入院というのが許された時代であり、家族が退院を望まなければ帰るところがないわけで、気が付けば太郎さんは当院で20年間を過ごされていました。
人生のうち、20年という長い年月を病院と言う環境で過ごされた太郎さんに対して、残りの人生をもっと広い世界で過ごしてほしいと思った私は、退院を勧めることにしました。
太郎さんと話をすると、長年過ごした病院への愛着もあるけれど、自宅で家族と過ごしたいという思いも強いことを確認することが出来ました。

太郎さんの日常を家族に伝え続けた日々
20年も経てば、太郎さんが家に居ないことが普通である家族になっています。そんな家族に対して私は太郎さんが入院している必要がないことを説明しました。しかし家族は受け入れへの不安を訴え、面会にさえ来てくれません。太郎さんも、面会にさえ来てくれない家族に遠慮の思いは隠せず、退院の意志はどんどん弱まってきていました。
そこで私は家族に手紙を書くことを考えたのです。
病院の中での太郎さんの生活ぶりや、精神の疾患に対する理解をしていただくような手紙を何通も送りました。院内のレクリエーションがあったら、そのときの太郎さんの笑顔、そのときの様子を記して家族に伝えました。そんなことをしているうちに、家族が太郎さんに会いに来てくれるようになったのです。私は家族の方が面会に来られるたびに、太郎さんの健康な側面を伝え、社会で暮らすことの意義を伝え間続けました。そして太郎さんは何度か試験的に実家への外泊を行い、23年ぶりに当院を退院され、社会に戻って行かれました。

患者さまと家族との調整を行うことも大きな役割
私は、精神看護にかかわる看護師は、患者さまと家族との調整を行うことも大きな役割だと考えています。家族は、自分の家族の1人が精神を病むと言うことに大きな悲しみと不安を持っています。病院に入院することで、家族が別れ別れになるという悲しみもありますが、病院に居てくれると安心と言う思いも強くなっていきます。
特に入院が長期になればなるほど、精神を病んだ家族が自宅に戻ることに大きな不安を覚えるのです。そんな家族と患者さまの橋渡しをするのが看護師の役割ではないでしょうか。
また、家族だけでなく、患者さまと社会との接点を見出すのも看護師の役目です。
病院という閉鎖された社会に安住するのではなく、社会に目を向けて、社会復帰がしたいと望んでいただけるよう、私は患者さまに働きかけ続けるつもりです。


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